2022年11月8日は、全国的に快晴で何よりでした。ほぼ全国民が皆既月食を楽しんだのではないでしょうか(オーバーな)。あのような赤銅色の月をじっくり観察出来て、日本中が幸せな気分になったことでしょう。おまけの天王星掩蔽まで加わって。
自慢と言っては何ですが、小生、9月から既に、11月8日は天気がいいと予報を出していました。種は単純で、過去10年分以上の気象庁のデータを分析させていただきました。7割は大丈夫と予想しました。やあ、でも予報が当たってよかった。(後から言うなら何とでも言えるわな)
【皆既中の月に隠される寸前の青い天王星:当日参加いただいた小久保さんの撮影によるものです】
さて、皆既月食に天王星が掩蔽されるとはどんなことなのでしょうか。
その前に余談ですが、442年前(本能寺の変の2年前)には、土星の掩蔽があったとのこと。ステラナビゲーターで調べると、太陽暦1580年7月26日午後8時から午後10時にかけて土星の掩蔽が表示されました。ステラナビゲーター(アストロアーツさん)凄いですね。土星が月から顔を出すときに、その前には天王星が待っていました。「次はお前の番だぞ、たのんだぞ」と言わんばかりに。
さて、閑話休題
皆既月食に天王星が掩蔽されるとはどんなことなのでしょうか。
1.天王星が皆既食の月に掩蔽される
2.太陽と地球と月と天王星が一直線上に並ぶこと(この順番に)
3.言葉にすればそれだけのことですが、もう少し天文学的に考察しましょう。
①赤経・赤緯の引かれた天球上を動いている天体として考察
②太陽系の中での惑星と衛星の動きから考察
③何がどのように動くとそうなるのか
天球上の赤経と赤緯での月と天王星の位置(下記リストのデータはステラナビゲーターからいただきました)(また、赤経、赤緯の解説、春分点等の解説は、後ろのほうに掲載しています。必要に応じて参考にしてください。)
天王星
20時
赤経 02h57m05.0s 赤緯 +16゚26’50” (J2000)
赤経 02h58m22.0s 赤緯 +16゚32’24” (視位置)
黄経 46゚56’49” 黄緯 -00゚22’16” (視位置)
方位 278.335゚ 高度 40.013゚
21時
赤経 02h57m04.6s 赤緯 +16゚26’48” (J2000)
赤経 02h58m21.6s 赤緯 +16゚32’22” (視位置)
黄経 46゚56’43” 黄緯 -00゚22’16” (視位置)
方位 290.268゚ 高度 51.842゚
22時
赤経 02h57m04.2s 赤緯 +16゚26’46” (J2000)
赤経 02h58m21.2s 赤緯 +16゚32’20” (視位置
黄経 46゚56’36” 黄緯 -00゚22’16” (視位置)
方位 308.390゚ 高度 62.525゚
月
20時
赤経 02h55m03.0s 赤緯 +16゚22’32” (J2000)
赤経 02h56m19.9s 赤緯 +16゚28’09” (視位置)
黄経 46゚27’33” 黄緯 -00゚18’00” (視位置)
方位 278.761゚ 高度 40.383゚
21時
赤経 02h56m32.2s 赤緯 +16゚37’02” (J2000)
赤経 02h57m49.3s 赤緯 +16゚42’37” (視位置)
黄経 46゚52’12” 黄緯 -00゚10’14” (視位置)
方位 290.174゚ 高度 52.048゚
22時
赤経 02h57m54.1s 赤緯 +16゚50’49” (J2000)
赤経 02h59m11.3s 赤緯 +16゚56’22” (視位置)
黄経 47゚14’54” 黄緯 -00゚02’36” (視位置)
方位 307.485゚ 高度 62.688゚
このリストから分かること
1.20時から22時の間に、月は天球上を西から東へ角度で45’くらい移動している。
2.20時から22時の間に、天王星は天球上を極わずか逆に東から西へ移動している。
3.つまり、月が直立不動の天王星の前を西から東へ横切っている。
4.横切っている間、地球からは天王星が見えない。
5.これが、天球上の赤経、赤緯の位置関係から考察した結果です。
6.忘れてならないのは、月の視直径が十分に大きいから、起こりうるということです。
次に、太陽系の天体として考察してみましょう。円が描いてある図を見てください。めちくちゃにデフォルメして描いていますが、中心に太陽、一番上に天王星、その間の緑3個が地球、茶色3個が月です。今回は、天球は知らんぷりです。
天王星の公転周期は84年7日。よって、2時間で動く角度は0.06’とほぼゼロです。一方地球は、角度で4.9’も動きます。それをプロットしたものが図です。右側の緑が20時の時点の位置で、中央が21時の時点での位置、左が22時。月の位置はさらに適当に書いていますが、月は1時間で地球の周りを角度30’も動きます。
つまり、図では、20時ごろ2.45’右側から月を伴った地球が天王星の前を横切ろうと左へ動いていき、21時頃には太陽、地球、月、天王星が一直線上に並びます。地球と月は変わらぬ速度でさらに左へ動いていき、天王星を右に残して、22時ごろ2.45’動いた状態をプロットしています。
地球と天王星はほぼ同じ公転軌道面を回っていますが、月は地球の公転軌道に対して5°傾いていますので、その分一直線に並ぶ確率は低くなります。
実際の天王星掩蔽を見ていると、20時の時点で皆既食の月の左下側の天王星が22時の時点で皆既食を終えた月の右下側に存在します。双眼鏡で見ていると天王星が左から動いて月の裏に入りその後月の右に出てくるように見えます。それは、錯覚のなせる業です。頭の中で月が天王星の前を右から左へ動いているのだぞと言い聞かせながら見ると、それはそれでそう見えます。
さて、今回の皆既食の月による天王星の掩蔽の考察は以上です。
太陽から天王星まで平均半径28億キロ、太陽から地球まで1.5億キロ。(位置的には、太陽から2.8キロとすると150メートル地点が地球の位置、地球から38cmに月)
私たちは、その直線上に立って、月を見て天王星を見たのです。28億キロの直線なんて神様くらいしか作れませんね。28億キロの直線を歩いてみたいものです。今回の皆既月食、天王星掩蔽。直線の針金がビシッと心に突き刺さって、恋したときみたいに心がときめきませんか。
海王星だったら45億キロの直線ができるのですが、人類が滅びる前にいつかあるのでしょうか。だれか頭のいいひと計算してみてください。
ちょっと無駄話
木星の位置の変化:
木星は公転周期が12年弱なので、1年におおよそ、黄道12星座をひとつづつ変わる。2021年はみずがめ座に居て、今年2022年はうお座に居る。来年2023年はおひつじ座にいる。分かりやすい惑星です。
天王星の位置の変化
天王星の公転周期は84年7日。1年に4.3°分しか移動しない。今年2022年はおひつじ座のδ星の下あたりに居る。来年2023年もほぼδ星の下あたり。
星座早見盤で
春分点: うお座のω星(通常誰も気にしない、いてもいなくてもいい星)のちょっと南(ちょっと下)。これで、少しは気にされるようになるかな。
秋分点: おとめ座のη星とβ星の近く、η星に近いところ。
星座早見盤で(天球上で)東回りは、うお座からおひつじ座、おうし座の方向になる。
赤経赤緯: 星が地球を中心とする天球に張り付いていると仮定して、天球に地球の経度と緯度のような縦せんと横線を描く。それが、赤経と赤緯。
赤経: 春分点を0時として、東回りに24時間制で表す。春分点のちょっと東にあるアンドロメダと西にあるペガスス座α星マルカブの赤経を表現してみよう。
アンドロメダの赤経 0h42m42s
α星マルカブの赤経 23h04m45s
赤緯: 省略
赤経と赤緯の変更 J2000と視位置
赤経の基点とした春分点や、赤緯の基点とした赤道面は、歳差運動(地球の地軸の移動による首振り運動)や章動によってわずかずつだが移動している。よって、その時点での見かけの値を視赤経・視赤緯(視位置)と呼び、変動分をならした値を平均赤経・平均赤緯と呼んでいる。
1991年までは、西暦1950.0年(B1950.0)に基づいた平均赤経、平均赤緯(1950年分点)が主に用いられてきたが、1992年から、西暦2000.0年(J2000.0)に基づいたもの(2000年分点)に改められた。
宇宙に見える星の位置をどのように決めるか
①地平座標 方位、高度 地平座標は感覚的で非常にわかりやすい座標系ですが、残念なことに星の位置は時間と共に変化してしまいますから、絶対位置を示す別の座標系が必要となります。それが、赤道座標です。
②赤道座標 視位置とJ2000が使われる。
③黄道座標 地球から見ると太陽は1年かかって背景の星空に対して天球上を1周しているように見えます。太陽は、この間に12の星座を通過していきます。星占いで有名な12の星座です。この太陽の通り道を黄道と呼び、黄道面を基準とした座標系を黄道座標といいます。
黄道座標太陽系の各惑星の軌道平面はほぼ一致していますから、地球から見た惑星も太陽と同じように、黄道に沿って動いているように見えます。よって、惑星や月など太陽系天体の軌道や位置をあらわす際に主に使われる座標系だそうです。
天球とは
地球上の観測者を中心とする半径無限大の仮想の球面が天球です。すべての天体はこの球面上にのっていると考えます。
この天球上に地球の経度・緯度に相当するものをあてはめた尺度が赤経・赤緯です。
2022年11月8日の皆既月食と天王星掩蔽は楽しい天文として日本の天文の歴史に残る素晴らしい天体事象でした。天文を楽しむためには、天気のいいことが必須条件であることを、改めて思い知らされました。