★ 今年最大の話題 「紫金山・アトラス彗星」は本当に来た! ★

天文ファンの間では、9月末から10月中旬に肉眼でみられるぞ、ととかく話題となっていたこの彗星。
10月に入ると、そこかしこに、この彗星の雄姿が紹介され、天文ファンの心を落ち着かなくさせていたこの彗星。
見えるぞ、見えるぞ、という前評判だけでは、天文クラブの名がすたるので、私自身の奮戦記のご報告といきましょう。

《 1 最初のチャレンジ  10月1日  4:00 》
彗星が”明けの彗星”を演じている頃、チャンスは明日の朝だ!と目覚ましをかけ4時に飛び起きた。
というのは嘘。事実は、たまたま早朝,目が覚めて、「あれ、彗星が見られるのでは?」と思い出したのだ。
計画的に起きたのか、たまたま目が覚めたのか、という差は、大きかった。  4時では遅すぎた。
ステラナビゲーターで位置と高度を確認しつつ、双眼鏡で見ても見ても見ても彗星らしきものは確認できない。
見えない、見えないと焦っているはなから、辺りは無情にも時々刻々と白んで來る。明け方の撮影は、これだから
冷や冷やものだ。いや、もっと早く起きなかったのが悪い。
ちなみに、ちょうど同じ時間帯に、我が天文クラブのアドバイザー浅田先生は野辺山にいらして、この写真を撮影された。

紫金山・アトラスby浅田
紫金山・アトラスby浅田

撮れる人には撮れるんだ。と反省。

《  二度目のチャレンジ  10月13日  18:00 》
さて、年間を通してシリーズで開催している「やさしい天文学講座」の今年度第3回は、10月14日の開催である。
10月13日、14日は「宵の彗星」の観察のベストタイミングとなり、この講座と合致したことはなんという幸運か!
西の空、地平線すれすれの彗星を観察するのは、ホテルでは難しいが、港まで出れば水平線ぎりぎりの様子を撮影できるはず。
そんな思惑で、天文クラブ員のTさんは、13日からホテル入りをし夜は撮影に挑み、14日の講座に参加と言う計画を立てた。
それなら、私も一緒に頑張ろうと13日から撮影にチャレンジする。
彗星は太陽を追いかけるように西の空に沈む。だから、太陽が沈んでから、彗星が沈むまでのわずかな時間がチャンスだ。
海辺の潮風に吹かれながら、金星が明るく見えだすのを一眼レフカメラをセッティングしスタンバイする。
すると、伊良湖岬という観光地なので、傍らを通り過ぎる人たちが「何を撮っているのですか?」と尋ねてくる。
彗星の話をすると、「では、そろそろという事なら私たちも、ここで彗星を待っていよう。」と待機する観光客たち。
位置としては、左手に明るく輝く金星、右手に1等星うしかい座のアークツールス。その中央付近だが、今日の位置としては、
ふたつの星より、彗星はさらに低い。しかし、穴が開くほど、双眼鏡をのぞいても、彗星の存在はよくわからない。
しっとりと暗くなると、その観光客の中から見えると歓声が。うーん。よくわからないが、やみくもにシャッターを押してみる。
やった!撮れた!カメラは人間よりよく見えるので、肉眼でみえなくても、写真には写る。
しかし、通りすがりのギャラリーたちが、スマホで何気に映した一枚のほうがよほどきれいに撮れていたなんて、、、
やはり、性能の高いカメラ(スマホ)は必需品だ。

10/13 伊良湖港付近の遊歩道にて by菱田

 

《 3度目のチャレンジ  10月14日  18:00 》
今日は、「やさしい科学的天文講座」の日。午前中は、鷹の渡りやアサギマダラの観察に充実の時間を過ごす。
14時からの天文講座が16時に終わり、そのあとは、いつもの御茶会でひとしきりおしゃべりとした後、17時過ぎから
我々伊良湖講座参加組は、個々にカメラと双眼鏡、天文クラブの望遠鏡を引っ提げて、伊良湖の港へ向かった。
日没ごろは、水平線のすぐ上には、ここだけ厚い雲に覆われ、「よりにもよってここだけ雲が」と泣きたい気持ち。
でも、頑張って、夕暮れ過ぎの景色を見守っていると、辺りが暗くなるにしたがって、なんだかすっとした線が空に
見えているような気が。そのうちに「見える見える」という歓喜の声がそこかしこから聞こえてくる。
夜の帳が深くなると、そのすっとした線のようなものが段々と確かに彗星の姿だと確信がもてるようになる。
やっと見えた。出会えた。昨日は、写真にはとれたけど、肉眼では今一つ自信がなかった。
尾をたなびかせる彗星の雄姿。太陽系の果ての果てからよくぞここまでやってきてくれました!

10/14 伊良湖の港付近で by hishida

 

4 彗星との一期一会
2024年の最大の天文イベントにして天体ショーはこのようにして終わった。
これで、この彗星との一期一会は終わりをつげ、この彗星は太陽系のかなたへ遠ざかっている。
再び太陽系に戻ってくることはないと言われ、戻ってきたとして、それは8万年先と言われる長周期彗星である。

この紫金山・アトラス彗星は、この10年余りで最も明るい彗星と言われ、1996年の百武、1997年の
ヘール・ボップ彗星以来の、「尾まで目視できる彗星の軌跡」を多くの天文ファンの前に眼前と見せつけた。
これは、少なくとも私にとっては、始めての経験であり、はじめての奇跡だった。
一期一会とはまさにここにある言葉なのか。二度と会うことのない彗星の雄姿に私たちは息を呑んだ。

さて、この様に、ひとつの彗星が消えゆく中、べつの明るい彗星が近づいていいるとの情報がある。
C/2024 S1(ATLAS) (アトラス彗星)は10月23日に地球に接近し、28日に近日点を迎える。
類まれな明るさになるか、分裂して消滅してしまうのか、そうした不確かさゆえに、天体を観察するという
楽しみも尽きないのかもしれない。

p。s。
さて、当HPのギャラリーにて、他の天文クラブ部員の撮影による、この彗星の写真を掲載しているので、
そちらもご覧ください。

菱田恭子